「映画」といってまず想像するのは、劇映画だろう。しかし、世界初の実写映画といわれる『工場の出口』(1895)は、そのタイトルの通り、工場の出口を映した46秒のドキュメンタリー映画であったし、今でも毎年多数のドキュメンタリー映画が世界各国で製作され公開され続けている。ドキュメンタリー映画の魅力はどこにあるのか? 検証した。

 第83回アカデミー賞ドキュメンタリー長編賞を受賞した映画『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』(2010)は、1980年代以降に起こった金融危機が、アメリカ政府と金融業界の癒着により引き起こされたものだという真実に迫った作品。天下り、天上がりなど、政治家、金融業界の重鎮たちが私腹を肥やすために、金融危機が起こり、税金が無駄に投入され、自国だけでなく全世界の一般市民が窮地に追い込まれていったアメリカの金融システムの実態を描いていく。

 また、遺伝子組み換え食品の種の世界シェア90%を誇る多国籍企業モンサント社とアメリカ政府の癒着にメスを入れた『モンサントの不自然な食べもの』(2008)という作品もある。モンサント社は、枯葉剤、PCB、牛成長ホルモン剤「ポジラック」などを製造、販売し、数々の問題を引き起こしてきた企業。同作では、そんなモンサント社が食品業を牛耳るに至った背景に、金融業界と変わらぬ政府との癒着があったことを浮き彫りにしていく。

 一方、隠ぺいされた真実を暴くのではなく、ただただ実態を追った作品もある。『チェルノブイリ・ハート』(2003)だ。「チェルノブイリ・ハート」とは、チェルノブイリ原子力発電所事故後誕生した子どもに多数見られるようになった先天性の心室中隔欠損症、または心房中隔欠損症に侵された心臓のこと。事故から16年後のベラルーシ共和国で、「チェルノブイリ・ハート」のほか、さまざまな健康被害に悩まされる子どもたちを追った同作は、第76回アカデミー賞ドキュメンタリー短編賞を受賞する高評価を得た。

 モンサント社を題材にしたといわれるジョージ・クルーニー主演の映画『フィクサー』(2007)、巨大企業による水質汚染を暴いたジュリア・ロバーツ主演の映画『エリン・ブロコビッチ』(2000)、タバコ企業の隠ぺい工作を描いたアル・パチーノ、ラッセル・クロウ共演の映画『インサイダー』(1999)など、実話を基に企業の隠ぺい工作を描いた劇映画にも名作は多い。しかし、物語を盛り上げるための脚色が何ら加えられていないドキュメンタリー映画は、それらの劇映画に増してリアルで、より明確な観客への問題提起作となっている。8日からは遺伝子組み換え食品と原子力、二つのテクノロジーの共通点に迫った映画『世界が食べられなくなる日』(2012)が全国順次公開中。世界に、そして日本に現在起こっている問題を知る手段として、そしてそれにどう対処していくべきか考える手段として、ドキュメンタリー映画という媒体を活用してみてはいかがだろうか?(編集部・島村幸恵)

映画『世界が食べられなくなる日』は渋谷・アップリンクほかにて全国順次公開中


2013年6月19日 14:01 (シネマトゥデイ)
http://topics.jp.msn.com/entertainment/movie/article.aspx?articleid=1906114