安倍政権の成長戦略の象徴である「農協改革」が決着した。全国農業協同組合中央会(JA全中)の監査権限廃止などが柱だ。政府は来月にも農協法改正案を今国会に提出する。

 成長戦略で安倍晋三首相は「未来に希望を持てる強い農業を創る」と訴えた。だが、政府の改革案が強い農業の実現につながるかどうかは不透明だ。

 まず監査権限の廃止が、なぜ農業の再生に結び付くのか。政府はこれまで、廃止によって地域農協に自由裁量を与えれば、農家の所得増加につながると再三主張してきた。

 しかし、これではあまりにも説明が足りない。監査が農協経営の自由を損なっているとの政府の主張には、当の農協から「実態から懸け離れている」との批判がある。さらに「農業所得をどう増やすのか明確な説明がない」との指摘も出ている。

 改革案にはJA全中の一般社団法人化も盛り込まれた。これも、なぜ強い農業に結び付くのか納得できる説明がない。

 そもそも今回の改革は、組合員である農家の声をきちんとくみ上げた結果とは言い難い。

 戦後、長年続いた仕組みを変えるのであれば、当事者が納得できるまで疑問に答え、意見を十分に反映させるのが筋だ。

 改革が分かりづらい形で決着したのは、全中の政治力をそぐ狙いが隠されているためではないか。全中が環太平洋連携協定(TPP)に対する反対運動を主導してきただけに、安倍政権が全中の影響力を弱めようとしている可能性もある。

 農協改革はこれで終わりではないだろう。在日米国商工会議所は、金融事業見直しなどJAグループの改革を求める意見書をまとめており、内容が安倍政権の改革方針と似ているからだ。分離させた金融事業を米国が狙っているのではないか。

 経済政策アベノミクスの地方への効果が疑問視されていることから、早期に決着させて有権者の期待をつなぎ留め、春の統一地方選を乗り切ろうという政権の思惑も透けて見える。

 こうした一連の背景を考えるとき、果たしてこのまま改革を進めていいのか。

 Aコープやガソリンスタンドなどを経営する農協は地域の生活基盤を支える存在だ。過疎地であるほどその役割は大きい。改革を進めるのなら、農協の多面的な機能を評価した上で、農家のために農協がどうあるべきかを論じなくてはならない。

 一方、農協の一部事業が他の民間業者を圧迫しているとの声があることも否めない。農家本位の組織という協同組合の理念に立ち返り、農協自ら積極的に改革に取り組む必要がある。

 選挙対策やTPP推進のためという政治的な理由で改革を進めることは、農家や消費者を置き去りにするものだ。改革の先にある農業の将来像を提示することなく、組織改革ばかりを論じるのは本末転倒である。

(2015/02/11 付)
秋田魁新報
http://www.sakigake.jp/p/akita/editorial.jsp?kc=20150211az