(2015/5/6)

 政府は、環太平洋連携協定(TPP)交渉の概要を説明する資料を公表した。情報開示を求める声への対応だが、交渉が終盤に入っていることを示すものともいえそうだ。ただ各分野について従来より詳しく説明するものの、最大の焦点である農産物関税をめぐる各国との協議などについては触れていない。政府は15日に東京都内で行う初の一般向け説明会などでこの資料を使って情報提供を行う考えだが、交渉への不安を解消する効果は限定的とみられる。

 資料はTPP政府対策本部のホームページに掲載。A4判6ページ分で、TPP交渉の21分野29章のうち18章を説明する。政府はこれまでにも交渉概要を説明する資料を作成・更新してきたが、今回は「かなり踏み込んで記述している。一般に公表する内容としては(交渉参加国で)一番詳しい」(同本部)という。政府は29章のうち、10章は既に交渉が終了したことも明らかにしている。

 資料では、食品の安全基準を定める「衛生・植物検疫(SPS)」、食品表示制度を扱う「貿易の技術的障害(TBT)」の両分野について、「(食の安全や食品の表示要件に関する)制度の変更を求められるような議論は行われていない」とそれぞれ明記した。

 両分野をめぐって衆参の農林水産委員会の決議は、残留農薬や食品添加物の基準、遺伝子組み換え食品の表示義務などを例示して「食の安全・安心を損なわないこと」と求めている。

 投資分野では、TPP参加国が外国企業に差別的待遇を行った場合に、外国企業が訴えることができる「投資家・国家訴訟(ISD)条項」を盛り込むことを明記。ただ保健や安全、環境保護といった分野で必要な規制が維持できるよう、「公共の利益を保護する政府の権限に配慮する規定」を導入する。国会決議は、国の主権を損なうようなISD条項には合意しないよう求めている。

 また環境分野では、漁業補助金について「過剰漁獲を防ぎ持続的な漁業の発展に資するルール」を規定するとした。国会決議では、漁業補助金を規制する場合は、過剰漁獲を招くものに限定するよう求めている。

 一方、最大の焦点である農産物関税など物品市場アクセス(参入)分野については、各国が関税撤廃・削減など品目ごとの扱いを示す提案(オファー)と、それに対する改善要求(リクエスト)を出す形で2国間協議が進められていることなどしか記していない。

 農産物関税は協定文とは別に各国と交渉していることに加えて、「手の内をさらす」(交渉筋)恐れがあるためとみられる。

 TPP交渉の情報について政府は、交渉参加時に各国と保秘義務契約を結んだとして極めて限定的にしか開示せず、当初から批判を受けてきた。4月には民主党と維新の党が、定期的な国会報告を義務付けるなどTPP交渉の情報公開を求める法案を提出。一方、米国では政府が、議会に交渉内容を開示している。政府が今までより情報開示を進めるのには、こうした事情に加え、交渉が終盤に近づきつつあるため、国民の理解を早期に得たいという思惑がありそうだ。

 内閣府の西村康稔副大臣が4日に協定案を国会議員が閲覧できるようにする方針を示したのもその一環とみられるが、農産物関税の交渉状況は閲覧を制限する可能性が高い。

日本農業新聞
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=33241