本紙独自検証

(2016/3/15)

 日本政府が環太平洋連携協定(TPP)交渉で合意した農林水産物の市場開放について、「156のタリフライン(関税区分の細目)の関税を維持した」などと説明している問題で、こうした手付かずの細目は、いずれも同一品目の中に複数ある細目の一つか、既に関税を撤廃している可能性が強いことが、日本農業新聞の調べで分かった。日本政府が譲歩できる農産物の全ての品目で市場開放をしている疑いが極めて濃くなった。重要5品目について「交渉からの除外」を求めた国会決議との整合性が問われそうだ。

・156細目 決議順守 揺らぐ

 日本農業新聞が農水省発表資料を基に細目を調べた。農水省は、昨年10月にTPP農林水産分野の大筋合意内容を発表し、「443(その後459に変更)の細目が関税撤廃の例外とされた。その中の156(その後、わずかに変更の可能性があると同省は説明)は税率の削減も関税枠の拡大もしない手付かずだ」などと説明した。日本政府が交渉で守った成果の一つだと強調している。

 日本農業新聞は、新たな関税分類に基づいた合意内容の資料を分析し、政府が「関税率を維持した」という細目がどのような具体的な中身なのかを調べた。公表資料では106の手付かずの細目が確認され、そのうち、重要5品目が100で、残り6は豆、コンニャク芋。これら106の全てが、同一品目内で国家貿易枠と枠外など複数の細目を持っていた。

 また、これとは別の20の細目は、既に関税をゼロにしているため、これ以上関税引き下げできないものをTPP交渉の手付かずの数字に加えている。その分、政府の“手柄”が大きくなっていることになる。

 品目と細目との関係を「精米」を例に取ると、次のようになる。細目では「国家貿易で輸入するもの」と「国家貿易以外で輸入するもの」に分かれるが、いずれも同省が発表したTPP合意内容では品目名は同じ「精米」になる。TPP合意では、前者の国家貿易「精米」で売買同時入札(SBS)方式の国別枠を新たに設け、米国とオーストラリアに譲歩することになった。しかし、細目では、後者は関税を引き下げたり新たに枠を設けたりしなかったので、手付かずで守った重要品目の一つというのが政府の言い分だ。

 どちらも仕様は全く同じなので、「精米」のくくりで政府は市場開放をしたことになるが、細目で発表することで精米の一部を手付かずで守ったような印象を与えている。

 同省資料によると、米で手付かずの細目数は17で、全てが国家貿易の枠外。枠内では、低関税枠の数量を設けるなど、全ての細目で市場開放している。いわば、同じコインの裏側だけを手付かずで残したものの、表側は譲歩した形だ。その他の品目では関税割当枠内の細目を手付かずにして、反対に枠外を市場開放したものもあり、さまざまなパターンがある。

 同省の発表資料では全ての情報を網羅していないため、156の手付かず細目がいずれも同一品目に複数あるものという確認はできないものの、今回の計算で約126が「市場開放できる品目は全て譲っている」ことになる。

 農業交渉に詳しい作山巧明治大学准教授は「米のケースと同じように、全ての品目で何らかの市場開放をした疑いが濃厚だ」と言う。農水省は「細目ごとに合意をしたもので、品目という概念で開放したかどうか整理していない。同じバターでも国家貿易の枠で輸入するものと枠外で輸入されるものは全く商品が異なり、同一のものといえない」(国際経済課)と説明して、品目ごとの事実確認を拒否している。

 国会はTPP交渉に日本政府が参加する前、重要5品目について「交渉からの除外または再協議」を決議した。しかし作山准教授は「日本政府は重要5品目を含む全ての農産物の品目で譲歩をしたとみられ、TPP合意は明らかに国会決議に違反している」と指摘する。(特別編集委員・山田優)


日本農業新聞
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